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部下の育成は、上司にとって重要な仕事の一つです。しかし、意欲や能力の違いを理解せずに一方的な指導をすると、部下の成長を妨げてしまうこともあります。逆に、適切なサポートを行えば、部下は自ら考え行動できるようになり、組織全体の力を高めることにつながるでしょう。
本記事では、部下の成長を促すための育て方を解説し、上司が陥りやすい失敗の原因や具体的な育成方法を紹介していきます。
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Contents

上司にとって重要な役割の一つが「部下の育成」です。「直接的な利益に結び付かない仕事」と思われがちですが、上司が部下の育て方を学び、部下の成長を促すことで次のような効果が期待できます。
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上司が部下の育て方を学ぶことは、組織全体の成果向上と安定力強化につながります。
部下が適切な指導方法によって成長し、能力を発揮できるようになれば、個々のスキルを伸ばすだけでは得られない組織的な効果をもたらします。
また、優秀な人材が増えることで相互に学び合う機会が広がり、社内の活性化や生産性アップも目指せるでしょう。
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部下の経験が浅いうちは、上司が細かく指示を出し、時間をかけてサポートする必要があります。しかし、部下が自立し自らの判断で行動ができるようになれば、上司は自身の業務に集中できます。
また、一人で抱えていた業務を任せることで、上司の精神的な負担が軽減し、効率的にチームを運営できるようになるでしょう。
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熱心に指導しているのに、部下の成長が進まないことも少なくありません。その背景には、上司の関わり方や指導方法に原因が潜んでいる場合があります。ここでは、部下育成に失敗する主な原因を紹介します。
部下を育成する際、厳しすぎる言葉や態度で接するのは避けましょう。上司から高圧的な指導を受けた部下は、心理的安全性(安心して意見や質問ができ、失敗を学びに変えやすい状態)が損なわれ、自分の意見を言いにくくなり、失敗を恐れて挑戦もしなくなります。
その結果、部下の学びや成長の機会は失われ、育成の効果が得られにくくなるでしょう。
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上司が細かい指示を与えすぎてしまうと、部下は常に指示待ちの状態になり、自ら考えて行動しようという気持ちが薄れてしまいます。
「言われたことだけをやる」という習慣が身に付いてしまうと、指示への依存が強まり、自発的な行動が生まれにくくなります。
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スキルが不足している部下に高度な仕事を任せれば、失敗やトラブルが増えて、組織の生産性に悪影響を及ぼす可能性があります。責任を感じた部下は仕事への自信を失い、成長への意欲が低下してしまうかもしれません。
一方で、簡単すぎる業務ばかりを与えると、成長の機会がほとんどなく、やる気の低下や停滞感を招いてしまいます。このように、部下に任せる業務内容とレベルの不一致は育成の大きな妨げになります。
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上司とのコミュニケーションができていないと、部下は自分の行動に不安を感じてしまいます。また、十分なフィードバックが行われなければ、何度も同じミスを繰り返し、組織全体の効率性も低下してしまうでしょう。
上司は、部下と綿密なコミュニケーションを取り、適切なタイミングで成長を促すようなフィードバックを心掛けましょう。
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効果的な部下育成を行うために必要な5つのスキルと、それぞれの高め方を解説します。
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リーダーシップとは、部下を導き、チームとして目標を達成する力のことです。単に命令するだけでなく、部下のモチベーションを高め、信頼関係を築く能力も含まれています。
リーダーシップを高めるには、どんなことにも前向きに挑戦する姿勢が大切です。また、トラブルが起きても慌てず冷静に解決策を示すなど、常に周囲の模範となる行動を心掛けることが重要です。
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目標管理能力とは、部下に対して適切な目標を設定し、その進捗を把握しながら達成へ導く力のことです。この能力が高い人は、単に数字や期限を押し付けるだけではなく、現実的な目標を提示し、達成までの過程で適切なフィードバックを行うことができます。
目標管理能力を高めるには、部下の適性をしっかり把握することが重要です。それぞれの強みと弱みを理解すれば、一人ひとりに合った目標設定や進捗管理が可能になります。その結果、目標達成に向けた指導の精度が高まり、育成の効果も大きくなるでしょう。
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コミュニケーション能力とは、円滑なやりとりを通じて相手と信頼関係を築ける力のことです。単に話がうまいだけではなく、相手の意図を正しく理解したうえで、自分の考えを明確に伝えられる能力を指します。
部下育成においてコミュニケーション能力を高めるには、普段から意識的に対話の機会を持つことが大切です。部下の話を最後まで傾聴する姿勢を意識し、上司自身の失敗談を共有するなど安心感を与えると、本音を引き出しやすくなります。
また、上司に対して萎縮している部下には、「何か困っていることはない?」「この前の資料、とてもよくできていたよ」など雑談や称賛の声掛けを積極的に行い、心理的な距離を縮める努力も必要です。
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コーチングスキルとは、部下の能力や潜在力を引き出し、自ら考えて行動できるようサポートする力のことです。コーチングスキルを生かせると、高圧的な指導をしなくても、部下の気づきを自然と促して自律性を高めることができます。
コーチングスキルを磨くには、まず傾聴の姿勢を意識しましょう。そのうえで、部下から質問や相談を受けた際、具体的な答えを与えるのではなく「どうすればうまくいくと思う?」など、部下が考えるきっかけになる質問を行います。
また、定期的に振り返りの機会を作り、部下の良い点を褒める肯定的なフィードバックを行うのも良い方法です。
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論理的思考力とは、筋道を立てて物事を整理し、理由を明確にしながら考える力のことです。論理的思考力が備わっていると、問題が起きた際にも感情に流されず、冷静に分析して適切な対応策を導き出すことが可能になります。
論理的思考力を高めるには、物事を結果だけで判断せず、「なぜそうなったのか」という原因を追求する姿勢が大切です。
また、一つの方法に固執すると視野が狭まり、論理の抜けや偏りに気づきにくくなるため、問題を解決する際は複数の選択肢を用意し、メリットとデメリットを比較することも有効です。
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ここでは、効果的な部下育成を行うために意識したいポイントを4つ紹介します。
「2年目ならこれくらいできるはずだ」「このやり方が正しいに決まっている」という価値観の押し付けは、部下育成に失敗する最大の要因です。
部下の主体性と成長意欲を引き出すには、次のような手順で部下と共に目標を立て、達成までしっかり管理していくことが大切です。
1.部下の現状を把握する「どんな課題を感じているか」「どこを伸ばしていきたいか」など、部下の考えをヒアリングして現状を把握する。
2.会社・組織の方向性を伝える「今期は顧客との接点を増やすことが大切」「チーム全体で○%の業績アップを目指している」など、会社や組織の視点を提示する。
3.双方の意見を擦り合わせる部下:「提案力を伸ばしたい」 上司:「新規案件の受注を増やしたい」 → 「月に2件、自分で提案資料を作成し、先輩と同行して顧客に説明する」など、部下の成長目標と組織の成果目標を結び付ける形で目標を設定する。 |
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最初から難易度の高い業務を任せるのではなく、少し努力すれば達成できるレベルの仕事を与えるのも効果的です。やや背伸びが必要な仕事は部下のやる気を引き出しやすく、成功体験の積み重ねは大きな自信と満足感を育みます。
なお、その際は放任するのではなく、必要な時にいつでも相談できる環境を整えることが重要です。「困った時はいつでも相談できる」という安心感が挑戦心を後押しし、更なる自律性の向上につながるでしょう。
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部下が成長する過程では、ミスやトラブルがつきものです。そんな時に上司が感情的に叱責してしまうと、部下は萎縮し、次の挑戦をためらうようになってしまいます。
そこで大切なのが、傾聴の姿勢と建設的なフィードバックです。まずは「どうしてその対応をしたの?」「自分ではどう感じている?」と部下の考えや気持ちをしっかり聞き取り、理解することが必要です。
そのうえで、「ここはよくできているから続けてみよう」「この部分は次にこうするともっと良くなるね」といった前向きな言葉で改善点を伝えると、部下は失敗を成長の糧として受け止めやすくなります。
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部下を育てるのがうまい上司は、課題や改善点を指摘するだけでなく、成果や努力をしっかり認めて褒めることができます。
人は「自分の頑張りを見てもらえている」と実感することで、モチベーションが高まり、更に成長しようという意欲につながります。
大切なのは結果だけで判断せず、「工夫した点」や「努力のプロセス」を具体的に褒めることです。褒められた経験は記憶に残りやすく、次の挑戦へ前向きに取り組む原動力となります。ただし、部下の中には「こんな程度で褒めるのか」と疑問に感じる人もいるため、部下の性格や価値観を考慮して、納得感のある褒め方を選ぶことが重要です。
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ここでは、部下育成で活用できる効果的な手法を5つ紹介します。
MBO(目標管理制度:Management by Objectives)とは、企業の大きな目標と社員一人ひとりの目標を結び付けて管理するマネジメント手法です。
部下は自ら目標を立てて取り組みますが、その目標は会社の方針と擦り合わせる必要があります。上司は、目標が会社の戦略と適合しているかをチェックし、難易度が適切かを調整するなど、目標の質を高めるサポートを行うことが求められます。これにより、部下には責任感がうまれ、「自分の仕事が組織の成果にどう貢献するか」を理解できるようになります。
OJT(On the Job Training)とは、実際の業務を通じて、知識やスキルを身に付けさせる教育方法です。自分のやり方を見せてから、部下に実践させるなど、上司は部下と一緒に仕事を進めながら指導します。
OJTの強みは、即戦力となるスキルをリアルタイムで習得してもらえることです。また、実際の業務に直結しているため、教えたことがすぐに成果につながりやすいというメリットもあります。OJTを効果的に行うためには、指導者である上司が、場当たり的な指導ではなく、教える内容を体系的に整理し、計画的に指導することが重要です。
Off-JT(Off the Job Training)とは、日常の業務から離れた場で行う教育・研修のことを指します。普段の仕事を通じて指導するOJTと違い、研修やオンライン講座など、業務外の環境で体系的に知識やスキルを学ぶのが特徴です。
Off-JTの強みは、日常業務では得にくい幅広い学びを提供できる点にあります。業務から一歩離れることで、部下は自分の役割を客観的に捉え直したり、外部の人との交流を通じて視野を広げることも可能です。
1on1とは、上司と部下が定期的に1対1で行う面談のことです。仕事の進捗や課題の確認だけでなく、部下の悩みや成長意欲、キャリアの希望などをじっくり話し合う時間でもあります。
この面談では、部下が自分の考えや気持ちを整理しやすいように、上司は傾聴の姿勢を大切にしましょう。また、1on1のなかではコーチングを用いて、部下自身が考え、気づき、行動できるように導くことが大切です。
1on1を成功させるには、部下が安心して話せるように、機密性が保たれる場所やオンライン環境を選ぶことが大切です。短時間でも構わないので、毎週など定期的に行い、継続的な信頼関係を築くことを意識しましょう。
eラーニングとは、パソコンやタブレットなどの情報機器を使用し、インターネットを経由して学習を行う教育方法のことです。具体的には、動画講義、オンラインテスト、資料閲覧、シミュレーション学習などが挙げられます。
eラーニングの利点は、時間や場所に縛られず繰り返し学べることです。また、上司が部下の学習履歴を一元管理したり、教材の更新を簡単に行えたりすることも大きなメリットと言えます。
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部下の意欲や能力には差があるため、同じ方法を全員に当てはめても効果が出るとは限りません。やる気はあるがスキルが不足している人、スキルはあるがモチベーションが低い人など、部下のタイプに応じた関わり方が求められます。
そこで役立つのが 「WILL/SKILLマトリクス」です。これは部下のタイプを「意欲(WILL)」と「能力(SKILL)」の2軸で分類し、それぞれに適した指導方法を考えるフレームワークです。
ここでは、「WILL/SKILLマトリクス」で分類した4つのタイプ別に、効果的な育成方法を解説します。
意欲も能力も高い部下は、自ら学び成長しようとする姿勢が強く、仕事を遂行する力も十分に備えています。こうした人材に対しては、細かく指示を出したり、逐一管理したりするよりも、一部の判断や意思決定を任せるなど、権限を委譲して自ら判断させる環境に置くのが効果的です。
将来の管理職候補として裁量のある仕事を与え、リーダーシップや視野の広さを身に付けさせましょう。
意欲はあるが能力が不足している部下には、丁寧な指導が欠かせません。このタイプは経験やスキルが追い付いていないだけなので、適切なサポートさえあれば短期間で成長できる可能性があります。
具体的には、「曖昧な指示ではなく、手順やポイントを明確に伝える」「小まめなフィードバックを行う」などが有効です。経験を積み能力が高まれば、組織にとって大きな戦力となるでしょう。
能力はあるが意欲が低い部下は、気持ちさえ高まれば即戦力になり得る人材です。仕事をこなすスキルは十分にあるので、効果的な動機付けを行い、眠っている力を発揮できるよう導く必要があります。
例えば、「何にやりがいを感じるのかを把握し、それに合った仕事を与える」「組織内での役割を明確にし、責任感を意識させる」「目標達成時のインセンティブを準備する」などの方法がおすすめです。
意欲も能力も低い部下は、仕事の意義ややりがいを見いだせていない状態なので、大きな仕事を任せると挫折しやすく、自信を失わせてしまう可能性があります。
そのため、「午前10時までに朝の仕事を終わらせる」「1日3件、顧客を訪問する」「毎日の報告書を一人で書く」など、達成しやすい小さな目標を設定するのが効果的です。
焦らず段階的に成長のステップを用意することで、意欲と能力の双方を少しずつ引き上げ、将来的に戦力となる部下へ育てることができます。
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部下の成長を促すには、部下一人ひとりの状況や性格を理解することが大切です。自分の価値観を押し付けたり、難易度の合わない仕事を任せたりしていると、部下の主体性やモチベーションは向上せず成長も見込めません。
上司は部下に合わせた指導を行い、安心して挑戦できる環境を整える必要があります。有効な育成方法を実践し部下のポテンシャルを引き出せれば、結果として組織の力も大きく伸ばせるでしょう。
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監修:谷所 健一郎
キャリア・デベロップメント・アドバイザー(CDA)/有限会社キャリアドメイン 代表取締役
1万人以上の面接と人事に携わった経験から、執筆、講演活動にて就職・転職支援を行う。ヤドケン転職塾 、キャリアドメインマリッジを経営。主な著書「はじめての転職ガイド 必ず成功する転職」、「転職者のための職務経歴書・履歴書・添え状の書き方」、「転職者のための面接回答例」、「転職者のための自己分析」(いずれもマイナビ出版)ほか多数。