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原則として、法律上「管理監督者」に当たる管理職には、休日出勤をしても割増手当が支払われません。一方で、代休や振替休日については会社によって規定が異なるため、管理監督者にも適用となる場合があります。
長時間労働が常態化しやすい管理職だからこそ、休日出勤の仕組みを正しく理解し、自ら働き方をコントロールすることが大切です。本記事では、管理職の休日出勤がどのように扱われるのか、また休日出勤を減らすための工夫についても詳しく解説します。
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Contents

一般社員とは労働時間の扱いが異なることもある管理職ですが、休日出勤はどのように扱われるのでしょうか。

休日出勤の扱いを説明する前に、「管理職」と「管理監督者」の違いを明確にしておく必要があります。
まず、「管理職」に法律上の明確な定義はなく、どの役職を「管理職」とするかは会社ごとに異なります。
一方、「管理監督者」は労働基準法で「経営者と一体的な立場にある者」と定められており、労働時間や休憩、休日に関する規定の対象外です。管理監督者は会社が自由に決められるものではなく、労働基準法上の基準を満たすかどうかで判断されます。
「管理監督者」に当たるかどうかは、役職名ではなく責任の重さや権限など実態に即して判断されるため、社内における「管理職」とは必ずしも一致しません。
【出典】厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
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法定休日は、「原則として週に1日以上または、4週間を通じ4回以上設けなければならない」(労働基準法第35条)と定められている休日です。管理監督者は経営者と一体的な立場にあり、労働時間を自分で調整できる権限を持っていると見なされるため、法定休日の規定は適用されません(労働基準法第41条)。
ただし、雇用主が任意で設けている所定休日は、管理監督者も対象となる可能性があります。所定休日の規定は会社ごとに異なるため、就業規則などで確認しておきましょう。
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管理監督者は法定休日が適用されないため、休日出勤手当は原則対象外です。
管理監督者は地位に見合った待遇を受けていることが前提であり、所定休日の労働対価はその待遇に含まれていると解釈されることが多いため、雇用主が設ける所定休日に出勤したとしても、休日手当が支払われるケースは少ない状況です。
ただし、就業規則などで管理監督者への休日出勤手当の支給が明記されている場合は、例外として管理監督者であっても支給を受けられる可能性があります。
管理監督者は法定休日規定の適用外のため、労働基準法上の出勤日数や休日数の直接的な上限は設けられていません。
しかし、過重労働を防ぐため、2019年からは管理監督者を含むすべての労働者に対する労働時間の把握が雇用主に義務付けられており、場合によっては医師の診断や処置が必要になることもあります。
出勤日数や休日数に法律上の上限はないものの、心身への負担を避けるためにも適宜休みを取り、働き方のバランスを意識することが大切です。
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管理職の休日に関しては、「振替休日」と「代休」の扱いも気になるところです。ここではそれぞれの違いと、管理監督者でも申請可能かどうかについて解説します。
「振替休日」とは、あらかじめ休日とされていた日を勤務日に変更し、その代わりに別の日を休日にする制度です。この場合、変更された日は通常の労働日として扱われるため、出勤しても休日労働にはあたりません。
一方で「代休」は、実際に休日に働いた後、その埋め合わせとして後日休みを取得する制度です。こちらは事前に休日を振り替えた扱いにはならないため、出勤すると休日労働として扱われ、休日の割増賃金が支払われます。
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先にも述べたとおり、管理監督者には労働基準法の休日規定が適用されないため、基本的に振替休日や代休も対象外となることが多いでしょう。
ただし、振替休日と代休は法律で導入が義務付けられているわけではなく、会社が就業規則や労使協定によって独自に設けている制度です。どのように運用されるかは会社ごとに異なり、管理監督者の申請が認められる場合もあります。
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休日や手当に関しては、そのほかにも確認しておくべき制度があります。それぞれ、管理職は対象となるのでしょうか。
年次有給休暇は、管理監督者を含むすべての労働者に付与される権利です。役職や立場にかかわらず、所定の条件を満たせばすべての労働者が取得できます。
年次有給休暇は、入社日から起算して6カ月経過し、所定労働日の8割以上出勤すると10日間が付与され、その後勤務年数に応じて付与日数も増えていき、6年6カ月以上勤務すれば最大日数の20日間が付与されます。
【出典】厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
【出典】厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」
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管理監督者には労働時間の規定が適用されないため、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた時の時間外手当や、所定労働時間を超えた時の残業代は支給されません。
一方、管理監督者ではない「管理職」は時間外手当・残業代の支給対象です。
管理監督者の条件を満たしていないのに、管理職という肩書だけで時間外手当や残業代が支給されないのは労働基準法違反に該当する可能性があります。ただし具体的な判断は就業実態と会社規程に左右されるため、疑問がある場合は人事部門や労働局・専門家へ相談することをおすすめします。
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深夜手当とは、22時から5時までの間で勤務した場合に支払われる25%以上の割増賃金のことで、管理監督者にも支払いが義務付けられています。
ただし、先述したように管理監督者には時間外手当は支払われないため、深夜残業になった場合は一般社員と支給される手当が異なります。
例えば、一般社員が通常18時に終業するところ23時まで働いた場合、18時~22時は「時間外手当」、22時~23時は「時間外手当+深夜手当」が支給されます。
一方、管理監督者が同じ条件で働いた場合、支給されるのは22時~23時の「深夜手当」のみです。
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管理職は、繁忙期やトラブル対応などで休日出勤を余儀なくされることも少なくありません。しかし、休日出勤の常態化は健康にも悪影響を及ぼす恐れがあるため、次のようなことを意識して負担の軽減を図りましょう。
管理職は、部下の育成、部署全体の調整、会議への出席、更には自らの業務もこなさなければならないため、必然的に業務量が膨らみがちです。こうした状況ではタスク管理と優先順位付けを徹底することが欠かせません。
例えば、緊急性や重要度で業務を区別し、即座に処理しなければならないものから優先順位を付けるのが効果的です。このようなタスク管理を行えば計画的に仕事を進められるようになり、結果的に長時間労働の防止にもつながります。
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管理職は業務量や責任の幅が広いため、休日出勤が発生しやすい立場にあります。とはいえ、どうしても仕事が終わらないという方は、自分だけで抱え込むのではなく権限を委譲し、可能な限り就業時間内に業務を完結させることを意識しましょう。
例えば、資料作成や会議準備といった定型的な業務は部下に任せ、自分は最終確認や意思決定に集中します。
また、顧客対応や現場判断を信頼できる部下に委ねれば、トラブル対応が管理職に集中することも少なくなるため、休日出勤の頻度も抑えられるでしょう。加えて、業務プロセスの見直しや役割分担のルールを整えることで、休日出勤に頼らない働き方の仕組みをつくることができます。
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ツールの導入や部門間の連携を強化することで、管理職の業務は大幅に効率化できる場合があります。一般的には、次のようなツールやシステムが活用されています。
プロジェクト管理ツール |
進捗状況を一目で把握でき、報告のために部下から逐一情報を集める手間がなくなる。 |
チャットツール |
リアルタイムで細かなやりとりができるため、メールよりもスピーディに情報共有ができる。 |
オンライン会議ツール |
会議のための移動時間や長時間拘束を避け、短時間で要点を押さえた打ち合わせが可能になる。 |
勤怠管理システム |
紙やExcelでの確認作業が不要となり、勤怠管理の精度と効率が向上する。 |
クラウドによる情報共有の一元化 |
重複対応や伝達漏れを防ぎ、部門全体の業務フローをスムーズにする。 |
こうしたツールやシステムの導入により、管理職は自身の業務に集中できるため、結果として休日出勤の削減が可能になります。
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休日出勤を減らす工夫をしても、「繁忙期は必ず休日出勤がある」「想定外の案件が多く休日出勤せざるを得ない」という方も少なくないでしょう。
ここではどうしても休日出勤が避けられない時に、ワーク・ライフバランスを保つための対処法を紹介します。
休日出勤をリモートワークに切り替えれば、通勤時間が不要になるため、その分を業務や休息に充てられます。また、自宅など落ち着いた環境で集中して作業できるので、業務を効率的に進められる可能性もあります。
リモートワークが可能な場合は積極的に活用することで、心身の負担を軽減するのも良いでしょう。
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休日出勤が続くような多忙な時こそ、計画的に有給休暇を取得して休息時間を確保することが重要です。適切な休息は、心身の疲労を回復させるだけでなく、仕事への集中力や判断力維持にもつながります。
有給休暇は基準を満たすすべての労働者に与えられた権利ですので、部下の取得を促すためにも、日ごろから上司が率先して取得することも大切です。
振替休日や代休が就業規則に明記されていなかったり、管理監督者は対象外とされていたりする場合でも、休日出勤による負担が大きい場合は、上層部と交渉し制度の適用を訴えるのも一つの方法です。
その際は、これまでの休日出勤の回数や、対応した業務内容を具体的に記録しておくことが重要です。例えば、日付ごとにどの業務に何時間費やしたか、どのような重要案件に対応したかをメモなどで整理します。
単に「休日出勤が多い」と訴えるよりも、数字や業務内容を提示すれば改善の根拠として説得力が増し、管理職向けの振替休日や代休制度の導入を検討してもらえる可能性も高まるでしょう。
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管理職のうち、労働基準法上の管理監督者に該当する場合は原則として法定休日がなく、休日出勤手当も支給されません。また、振替休日や代休の取得も就業規則などで特別に定められていない限り、認められないことが多いです。
しかし、慢性的に休みが取れない状況は心身に大きな負担を掛けるため、権限の委譲やツールの導入などで改善を図る必要があります。また、休日に関する制度の導入を会社と交渉するのも一つの方法です。
それでも改善が難しいと感じる場合は、キャリアの見直しや転職といった選択肢も視野に入れて、より働きやすい環境を見つけましょう。
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監修:谷所 健一郎
キャリア・デベロップメント・アドバイザー(CDA)/有限会社キャリアドメイン 代表取締役
1万人以上の面接と人事に携わった経験から、執筆、講演活動にて就職・転職支援を行う。ヤドケン転職塾 、キャリアドメインマリッジを経営。主な著書「はじめての転職ガイド 必ず成功する転職」、「転職者のための職務経歴書・履歴書・添え状の書き方」、「転職者のための面接回答例」、「転職者のための自己分析」(いずれもマイナビ出版)ほか多数。